特許翻訳者になるために

自分の経歴が不利だと思うときに向き合うべきこと

フリーランス翻訳者の応募条件のひとつに「経験年数」があります。それについて思うことがあったので、過去の経験を振り返り記事にしてみたいと思います。

最初にお伝えしたいこと。

このやり方だけが正しいとは思っていませんし誰かに強要するつもりもありません。あくまで「私個人の考え」であることを理解しながら読んでいただけると嬉しいです。

その昔、そろそろ翻訳会社に応募してみようと決めた頃、大きな壁にぶち当たりました。

『応募条件』です。

公式WEBページのエントリー画面に「応募条件 翻訳経験3年以上」「実務経験5年以上」と記載がある企業は少なくありません。

当然ながら、その水準にはとどきません。もっと言うと、前職も翻訳関係ではありません。

普通に見ると明らかな基準外でアウトです。エントリーの資格はなく、無理に履歴書、職務経歴書を送りつけてもゴミ箱行きでしょう。

トライアル挑戦権を手にすることができないと、その会社からの仕事獲得のチャンスも当然ながらゼロです。

では、どうするのか?方法は2つあります。

方法1:嘘の経歴を書く

方法2:別の道を「自分で」つくる

方法1【嘘の経歴を書く】について

倫理的な問題は一旦置いておいて、方法としては使えるのが現実です。職務経歴書を書き換えればよいだけの話。5~6年翻訳経験があるように書き換えたり、自分は到底訳すことのできない「イケてる」翻訳実績を足し込んだり。

誤解を恐れずに言いますが、職務経歴書を含めて自分で自分をアピールするときにある程度の「パフォーマンス」は必要だと思っています。魅力ある人材だと思ってもらうために、「見せ方」の技術は要ります。これは翻訳業界に限ったことではありません。

例えば、過去に翻訳会社で働いていて社内翻訳を担当していた人。本当は社内評価イマイチなイマイチ翻訳者だったとします。しかし、そこを「バリバリやっていました!」とアピールすることはぶっちゃけありだと思います。

でも、私の経歴のようにその「土台」が全く無い場合もありあす。つまりは、前職は翻訳(語学)と全く関係のない仕事ということです。まあそれはそれで違った見せ方で、違った魅力を伝えることもできると思いますが。ボケッと働いてきたわけではありませんので。

しかし、

嘘は絶対にやめた方がいいです。これは、相手に失礼とか常識的な問題とかたくさんの理由がありますが、一番は「自分のため」だと思っています。

嘘をつくと、自分の中でつじつまが合わなくなるときが後々絶対にやってきます。

そして、自分で自分の首を締めることになります。

嘘は自分が知らないところで、自分が思っているよりも自分の未来を蝕み、そしてじわじわと自分を苦しめます。

仮にトライアルを突破できたとしても、合格という「ゴール」にたどり着いたのではなく、その翻訳会社とのお付き合いが「スタート」したということです。

嘘を抱えたお付き合いは絶対にいつか破綻すると私は思っています。

男女の関係も結局のところそんなことが多いです。

入り口って、案外大事だと思います。

方法2【別の道を「自分で」つくる】について

当時、こういうときこそ人と人、面と面のパワーじゃないかと考えていました。

正直言って、嘘を書きたくなる気持ちはわかります。経歴や実績を振り返って、自分って何にもないじゃない……って悲しい気持ちになったことは何度もあります。

でも、実際に嘘を書くという選択肢は私にはありませんでした。

理由は2つです。

まず、経験年数に対する考え方。

経験年数にラインを設けている場合、その本質は「いつからやっているか」ではなく「今の実力はどうなのか」だからです。この「今の実力」を推測するための有力な材料のひとつが「経験年数」とも言えます。やはり実力が大事なのです。

次に、長い目で見たときに自分にとって不都合な要素になり得ると思ったからです。

私は中国語に触れてからのいわゆる「中国語歴」が短いです。前職も語学系の仕事ではありません。経歴的には間違いなく弱みです。

しかし、その弱みを利用して「中国語スタートが遅くてもここまでいけます」というコンテンツ発信(書籍や動画など)を計画していました。そして、その半年後に実際に行動に移すことになります。

トライアルのチャンスが欲しいがために自分の経歴・実績を塗り替えると、後々このコンセプトが成り立たなくなる。目先のことだけを考えるのではなく長い目で見たときに、自分のプランの中に「ズレ」が生じるのです。

もちろん、倫理的なことは大前提としてあります。人間誰しも自分のことを「嘘つき」にはしたくないですよね。本音の部分はここです。

これらの理由から考えたのが、「面と面」で結果を変えてみようということ。

これもある種の商談になるのかな?

具体的に言うと、毎年、秋にある「翻訳祭」で翻訳会社のブースを訪問し、担当者に直接アプローチしたということです。

真っ直ぐに相手と向き合って、しばらく話して、キャッチボールをしながら自分という人間(プラス今の実力)を見てもらう。少し期待を持ってもらっている?と感じたときに、正直に伝えてみる。「実はWEBページを見たのですが、御社規定の経験年数には残念ながら足りていません。でも是非トライさせていただきたいです。」

「ルールなのでダメです」「うちは無理です」そう言われても文句は一切ありませんでした。

けれど、結果として了承していただけました。

(もちろん、その会話を通して理系分野の専門用語を使った会話に当たり前についていけるようになっていることが前提ですが。そこまでは最低自分のレベルを上げてから。)

せっかくブースに来たしという社交辞令もあったのかもしれません。けれど、短いなりにも対話をした後だと「大丈夫ですよ」と返事を頂いたり、「○年以上しかエントリーできない仕組みになっているので、備考欄に私の名前入れといてください」と言ってくださった方もいらっしゃいました。

もちろん、本当の実力評価はその後です。あくまで「挑戦」に対する許可を得ただけの話ですから。

こう書くと「直接言えば意外といけんじゃねーの」なんて思う人もいるかもしれません。けれど、この5分の会話に私の頭はフル回転でしたし、その場でできることを120%でやりましたし、事前準備も当然しました。(かなりの時間をかけました)

細かいことは書きませんが、ただ何も考えず「年数足りないんですけどいいですかー」なんて会話はしていなません。そんな感じで臨めば翻訳会社もアホじゃないしやんわり断ると思います。私だったらそうします。

私がお伝えしたいこと

ここで私が言いたいのは、「頑張って説得しましょう」ということではありません。

自分の条件では不利だったり明らかに無理だからといって、簡単に諦めたり、簡単に嘘をついたり、「簡単」な方にアッサリ逃げることをするべきではないということです。

楽な方に行きたい気持ちはわかります。私も人間ですし。

けれど、そういうときこそ「だったら自分には何ができるか」「真正面が無理なら他にどんな方法があるか」「お互いのメリットになるにはどう動くべきなのか」について思考を巡らせることです。

悩みながら、自分の軸を持ち、道を見つけて、勇気を持ってそこにぶつかっていくべきなのではないでしょうか。これはプロとして最低限やるべきことなのではないでしょうか。

もちろん、翻訳業界に関わらず、どの業界でも、です。

これもある種の営業なんだと思います。

営業って売上を上げるたけが仕事ではありません。普通に放っておくとマイナス状態のもの(道がない・弱み・デメリット)であっても、人と人、面と面の場を持つことででプラスに変える、変える働きかけをする。これも立派な営業力であり、フリーランスとしてはやっていかないといけないことだと思います。

結果はうまくいくときもあれば、いかないときもあります。そのときにまた考えればよいだけの話です。自分に嘘をついていなければ、また新しい考えが巡ってきます。

当時はたまたま「翻訳祭」というリアルな対話ができるタイミングだったので、そのタイミングで自分の考えをある意味「試す」ことができました。(もちろん、なんとかお役立ちできるぞ!と感じるレベルまで自分の実力をあげてから、というのは言うまでもありません。一年前のレベルだったら会話についていくことすらきっと無理でした)

自分で道をつくっていくこと

なんていうと大袈裟ですが……

人によってやり方はそれぞれだと思います。だから正解はないと思います。

今回の話、何を甘っちょろいこと言っているのだと思われるかもしれません。バカ正直と笑われるかもしれません。現実を知らないからと言われるかもしれません。

一応は営業職を11年やってきました。色々な局面で「上手にやること」も必要というのは知っています。利害関係があるのは当然ですし、突破しなければいけない壁があるのもわかっています。

けれど、私はやっぱり自分がやっていることに誇りを持てる生き方をしていきたいのです。自分に自信がなければ、自信につながる「事実」をコツコツ積み上げていけばいいだけだと思います。魔法なんてないし、しんどいけれど、それしかやり方はないのだと思います。

ということで、やるべきことはただひとつ。実力アップのみ!