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コカ・コーラ、酎ハイを全国展開 酒類市場に本格参入

昨日の新聞紙面を見て、「おっ!やっと来たか!」と感じた方も多いのではないでしょうか。 日本コカ・コーラが九州エリアでテスト展開していた「酎ハイ 檸檬堂」を秋から全国展開するとのこと。

コカ・コーラ、酒類全国展開 酎ハイを秋に/日本経済新聞

日本コカ・コーラ、缶酎ハイに本格参入 全国展開へ/産経ニュース

ブランド公式サイトもすでに展開しています。

この「檸檬堂」は昨年の5月に九州限定で発売されたもの。話題性も含めて全国拡大のゴーサインが出るのは時間の問題でしたが、今年の10月に決定。

実はこの動き、現在の食品市場を取り巻く「もろもろの事情」を読み取ることができます。

元食品メーカーの視点から、ポイントをまとめました。

ちなみに、世界各国のコカ・コーラ社を見ても、お酒を展開しているのは日本だけです。ここも大きなポイントになります。

清涼飲料水カテゴリは消耗戦

皆さん、コーラ社が関係する大きなニュース、今年に入っていくつか目にしませんでしたか?注目はこの2つです。

【1月】コカ・コーラが27年ぶりに価格改定 大容量PETが中心、物流費・原材料価格の高騰で/食品産業新聞社

【4月】コカ・コーラ 希望退職に950人が応募/流通ニュース

物流費も原料費も高騰、おまけに希望退職。決して順調ではありません。その背景には日本の人口減少(胃袋が減ると食品市場も当然シュリンク)と「砂糖離れ」があります。

消費者の健康意識の向上から、飲料に関わらず糖分摂取削減の傾向が強まり、その傾向は今後さらに顕著になっていくと見られています。コーラ社は爽健美茶などの茶類、ジョージアなどのコーヒー類も展開していますが、本業はやはり「炭酸飲料」。日本市場を考えると、飲料カテゴリは頭打ちです。

更なる追い打ちが、この異常なまでの冷夏……。(これは予想していなかったと思いますが)

ここまで気温が上がらないのは何年ぶりでしょう。飲料の売り上げって、気温1~2℃で驚くほど変わってくるのです。泣きっ面にスズメバチ状態です。

最近はエナジードリンクも発売しましたよね。

コカ・コーラ エナジー/コカ・コーラ公式

エナジードリンクって、通常のPETボトル飲料とは別カテゴリになるので、自社商品が多数あるカテゴリでの「椅子の取り合い」にはならないのです。コンビニなんかでも売り場が別々ですよね。

「いかに主戦場以外の売り場で展開できるか」が今後生き残る条件になってきます。

ノンアルコールの飲料棚の中って、実はかなりの消耗戦。薄利多売の世界です。そこでパワー商品を新しく展開するよりも、新しい売り場を広げに行ったということ。もちろん今までのノウハウもしっかり生かせる場所で。それが今回「酎ハイ」なのです。

「酒」という新規事業は実は手間がかからない

これはコーラ社にとって、という意味です。なぜなのでしょうか。

食品メーカーが新規カテゴリを立ち上げると、当然ながら「人」が必要になります。特に数が必要になるのが、商品を案内して売り場を取っていく「営業」ですね。新規展開するカテゴリによっては新たな部署を立ち上げ、営業も増員という流れになるのですが、今回コーラ社が酒類商品を発売する場合、実はそこにそれほど大きな手間がかからないのです。

なぜなら、スーパーなどの小売り側でどの商品を扱うかを決めるいわゆる「バイヤー職」の人は、飲料とお酒を兼任しているパターンが多いのです。商品棚の位置も近いですし、販売傾向も似ているため、この2カテゴリを共通で担当しているバイヤーが多いのです。

コーラ社は飲料の最大手。飲料のバイヤーとのパイプはがっちりです。労力をかけてゼロから新たにから開拓しなくても、同じ窓口から商品提案が可能です。手間がかからないどころか、むしろ強みを生かせるパターンなのです。なので、このためにわざわざ人を残しておく必要はないのです……。

拡大市場へのブランド集中

コーラ社がお酒を出すのであれば、「コーラ味」でいいと思いませんか?チューハイのコーラ味、コーラテイストの第三のビールなど、商品化はこちらの方が簡単です。(実はすでにありますが……キリンビールなど各社が展開しています)

しかし、それでは勝てないことぐらい世界的ガリバーのコーラ社はわかっています。酒市場は激戦。「水モノ」がいかに消耗戦になるかということは、清涼飲料水で長きにわたってトップに君臨するコーラ社が一番わかっているのです。

むやみに新商品を出すのではなく、伸びているカテゴリ(酎ハイ)を選択するのはある意味当然のことですね。

酎ハイ市場はここ数年ずっと伸びています。

低アルコール飲料市場(酎ハイ系カテゴリ)の市場推移/食品産業新聞社

ちなみにビールはこんな感じです(:;)14年連続で減少……

今回、さらに3つの点に着目しました。内容は「コーラ感ゼロ」「レモンに特化」「秋発売」です。ひとつずつ見ていきましょう。

コーラ感ゼロの理由

まず、注目すべきは展開商品がコーラ感ゼロであること。これはコーラという「フレーバー」を売るのではなく、清涼飲料水で蓄積した果汁を扱う「技術」を売りにしているからです。

ぶっちゃけ、コーラ味はやっぱりコーラが一番美味しいです。中途半端はコーラ風味商品を作るのであれば、コーラブランドにも傷がつきます。

さらには、無理にコーラフレーバーを展開するよりも、既存のコーラでの「割り方提案」だったり、本丸のブランドを底上げした方が売り上げ・利益ともについてくると私は思っています。

レモンに特化した理由

次に、商品展開としてレモンに特化している点にも注目すべきです。上のグラフにもあるように、2018年の酎ハイ市場は10%も拡大し、今後もしばらくこの流れが続くと言われています。その中で、果汁感や鮮度などを売りにした柑橘系が大きく支持されています。

今年2月、サッポロビールも酎ハイで「レモン」に特化したブランドを新たに立ち上げました。当然ながら、フレーバーはレモン系のみです。

サッポロ、レモンチューハイの新ブランド/日本経済新聞

サッポロボールブランド発表会/日本経済新聞

こちらはグループ会社にレモン果汁のパイオニアであるポッカサッポロ社がついています。

食品市場では、以前のように「色々選べる楽しさ」をアピールするブランド展開よりも、ここ数年は「ひとつのものを深掘りする」ブランド展開が増えています。専門性がひとつのキーとなっています。

今回のコーラ社もそのひとつ。最初から「レモン」に特化することで商品価値を訴求しやすくなり、販売価格を維持することにもつながります。

ちなみに檸檬堂3品は350mlで税抜150円の設定。350ml缶は2桁(98円、99円)の販売価格も今や普通なので、価格競争を避けるためにも最初はコンビニが中心になるでしょう。

ちなみに檸檬堂3品は350mlで税抜150円の設定。350ml缶は2桁(98円、99円)の販売価格も今や普通なので、価格競争を避けるためにも最初はコンビニが中心になるでしょう。

柑橘系戦争、これからどのような展開が待っているのでしょうか。個人的にもレモン酎ハイは大好きなので、各社どのような商品を発売するのか、今からワクワクしています!

秋発売の理由

最後は発売時期についてです。秋にしたのはさすがだなと思いました。

大手ビールメーカーはやはり夏が勝負。市場が落ち込んでいるとはいえ、まだまだボリュームのある缶ビール。春~夏のボリュームゾーンは既存の酒メーカーが売り場をがっちり押さえています。新商品も集中投下します。そんな季節は避けて当然。戦争が少し落ち着く秋の時期が一番参入しやすいですね。

そもそもコーラ社は日本で一番飲料を売っている会社。週に何品も新商品が出続けるから、夏は本業が忙しいのです。

出展:販促会議

ちなみにイメージキャラクターは阿部寛さん。いろはすのCMもあって、コーラ社の顔って感じですね!楽しみだな~

以上、コカ・コーラ社の酒類全国展開を元食品メーカーの視点で解説してみましした。

※アイキャッチ画像は【日本コカ・コーラ、缶酎ハイに本格参入 全国展開へ/産経ニュース】からお借りました