翻訳者の日常

特許文書の請求項は「ザル」のイメージで

先日、春雨を茹でて湯切りをしているとき「ザルって請求項みたいだよなー」と、ふと思ったのです。

一度、夫の前で「請求項が、請求項が……」とブツブツ言っていたら、「せいきゅうこうって何?」って聞かれたことがありました。

「えっと、特許って権利文書やから、確保したい権利を明確にして、その中で大事なポイントを箇条書きにしたやつ」

今考えるとめちゃくちゃわかりにくい説明だなーと反省です(笑)

今なら「ザル」と言います。ザルって、よく考えると請求項の本質を表すのに最適なものだと思うのです。

ザルとガラス玉

ザル、みなさんの家にもありますよね。網目があって、その大きさもザルによってさまざま。

そして、もうひとつの主役が「ガラス玉」たち。ガラス玉は色々な形があります。同じ形のものでも、サイズが違っていたりします。

もうおわかりですね。請求項に当てはめると、この「ガラス玉」が「権利」。そして、ザルが「請求項」

ザルの網目の形が保護したいものの「種類」を、大きさが「数値範囲」を表しています。

このガラス玉を上からザーッと落としたときに、ササッと下にザルをかまして、キャッチするのです。

ザルの中にうまく確保できたガラス玉はとっても価値のあるもの。たくさん確保できたら飛び上がって喜んじゃいます!それを売ってお金儲けもできますし、ガラス玉をじっくり観察して、同じようなものを作り出すこともできます

でも、ザルの網目が大きいと、比較的大きなガラス玉はキャッチできても、小さなものは下に落ちていってしまいます

網目の大きさによって、キャッチできるガラス玉が違ってきます。網目を少し小さくすると……

さっきキャッチできなかったものが、今度はキャッチできます。

網目の大きさをもっと小さくすると……

さらに別の種類のガラス玉をキャッチできます。

こうやって、確保できるガラス玉を増やしていき、最終的にはできるだけたくさんのガラス玉をキャッチできることを目指します。他の人に盗られないうちに、懐に入れるのです。

これが請求項と権利の関係です。

請求項は、ザルの網目の大きさや形を細かく指定しているもの。それでキャッチ(権利化)できるものが、新規発明で保護される権利になります。

請求項の構成

◆単品で存在するもの(=独立請求項)

◆大きい範囲から徐々に小さい範囲にしぼっていく流れがあるもの(=従属請求項)

◆範囲はしぼるけれども、その中で「並列要素」があるもの(=これも従属請求項)

こうやって、複数のタイプのザルを組み合わせながら、できるだけ多くの種類のガラス玉(権利)を確保していくのですね。

ザル専門ポリスの脅威

「せんせ~い!思ったんですけど、細々たくさんのザルを用意するんだったら、最初からでーっかいの1つ用意して、網目こまかーくして、まとめてガッサリ全部確保したらよくないですかー??」

はい、これはよい質問ですね。図で表すとこういうことですね。

たしかに右側のパターンの方が、ガラス玉を集めるのには効率よさそうですよね。

けれども……

そこには「ザル専門ポリス」の存在があるのです。

世界中にはこのようなザルがたーくさんあって、1つだけルールがあります。それは、

「過去に同じザルがあった場合、そのザルは使えない」です。

世界中でたくさんのザルがある中で、「過去に同じものが存在していたかしていないか」を調査し、取り締まっているのが「ザル専門ポリス(=特許庁の審査官)」です。

もし、このポリスに「このザルは過去に同じものがあるね。却下!」とされると……

そのザルは手放さないといけないのです(泣)

結果、そのザルでしかキャッチできなかったガラス玉(=権利)は諦めることになります。

せっかくお金と時間をかけてザルをつくったのに、もったいないですね。

この「却下!」は、ザル1つに対してそれぞれ判断されます。

「とあるザルは「却下」だったけど、すぐ下にあったザルはセーフだった」ということもあります。

このとき、もしザルを1つしか用意していなかったら、そのザルにちょっとでも過去のものと重なる部分があった瞬間に「却下!」となってしまうのです。

結果、ザルがまるっとなくなってしまい……

ガラス玉をぜーんぶ諦めないといけないことになります。

これを回避するために、ザルを複数準備して、万が一ひとつだけなくなっても他のザルが機能するようにつくられているのですね。

まとめ

ザル…請求項
ザルの網目の形…権利化したいものの種類
ザルの網目の大きさ…権利化したいものの数値範囲
ガラス玉…発明の権利

<請求項の組み立て>
ザルの作り方を工夫して、網目の形や大きさを吟味した上で「これだ!」というものを完成させる。それぞれの組み合わせも考える。どのザルの下にどのザルを置くべきか。

<権利化>
ガラス玉をキャッチする。どれだけたくさんのガラス玉が確保できるかが勝負。一度確保したものは他の人のものにはならないから。

<審査>
ザル専門ポリスが判断。万が一「却下!」のザルが出てても全体への影響が少ないように、複数のザルを組み合わせておく。予想外の「却下!」をくらわないように、同じようなザルが世間で出回っていないか事前調査も有効。

以上、春雨の湯切りをしながら思いついたことを今回は記事にしてみました。これを見て請求項を少しでも身近に感じていただけたら嬉しいです。